🧩 29バイトで伝えるHello:SuperHackでの「Hello, World!」コードゴルフ 🔗

hacker.orgの「Super Small Hello World」チャレンジの解説記事です。うまくいった解法、惜しくも届かなかった解法、そして最終的に29バイトに到達したトリックを紹介します。

Overview

📑 目次 🔗


🎯 チャレンジの概要 🔗

hacker.org には、SuperHack と呼ばれる少し風変わりな難解プログラミング言語(Esolang)があります。課題自体は一見すると実に単純で、「Hello, World! と出力するSuperHackプログラムを書くこと」です。

しかし、本当の勝負はスコアにあります。スコアはコード全体を囲む最小の長方形(バウンディングボックス)の面積で決まり、小さければ小さいほど高評価となります。また、プログラムは !(停止)命令を実行して正常に終了しなければなりません。テキストを出力した後にVM例外でクラッシュしたり、余計なバイトを出力したりした場合は失格となります。

打ち破るべきターゲットの数字は 29 でした。


🧭 2分でわかるSuperHack入門 🔗

SuperHackは、Befungeの思想に近い2次元スタックマシンです。

命令効果
0-9数字を1つプッシュする
+ - d加算、減算、切り捨て除算(ゼロによる d は 0 になる)
xスタックの先頭(トップ)を複製する
n ^スタックの先頭から n 個下にある要素のコピーをプッシュする(1^ は2番目の要素をコピーする)
,入力を読み込む。入力がない場合は 0 をプッシュする
gx をポップし、y をポップし、座標 (x, y) にある文字コードをプッシュする。グリッド外の場合は 0 をプッシュする
Pポップして文字として出力する(下位7ビットのみ)
s次のセルをスキップする
?ポップし、その値が 0 であれば次のセルをスキップする
@現在の位置(および進行方向)をコールスタックにプッシュする
$位置をポップしてそこへジャンプし、さらに2セル先から実行を再開する
\ミラー(鏡):「右への移動」を「下への移動」に変える
!停止(halt)
その他すべて何もしない(no-op)

ここから導き出される2つの性質が、以降のすべての設計を方向づけます。

  1. 文字そのものがデータになる。 g 命令はプログラム自身のコードを読み取るため、Hello, World! という文字列をそのままグリッド内に配置し、1文字ずつ読み出すことができます。その文字の大半(H e l o W r)は実行されても何もしない no-op です。ただし3つだけ例外があり、, は 0 をプッシュし、d は除算を行い、! はプログラムを停止させます。
  2. @ と $ でループを作り、ループ回数は @ の配置によって決まる。 $ は戻り先の @ の2セル後から実行を再開します。そこに次の @ があれば再びそれ自身がプッシュされるため、数個の @ を並べるだけでループ本体を何度も繰り返し実行できます。
    • 隣接する @@@@@ はフィボナッチ数のループ回数を生み出します。5つ並べると、ループ本体はちょうど 13 回実行されます。
    • 1マスおき(2セル間隔)に配置した @ は2の累乗のループ回数を生み出します。4つ並べると 16 回の実行が可能になります。

13文字、そして13回のループ。この一致を覚えておいてください。

面積は「幅 × 高さ」であり、29は素数です。したがって、29セルのプログラムは必然的に「1行」または「1列」のどちらかになります。


1️⃣ 解法1:素直なループ(面積 32) 🔗

Solution 1 annotated

Hello, World!%0@s!@@@@@ 01^gP1+$

最初の実用的な解法は、先頭に文字列データ(ペイロード)を置き、その直後から実行を開始するものです。

部分役割
Hello, World!データ。PCは % からスタートするため一度も実行されない
%エントリーポイント(開始位置)
0インデックス i = 0
@ s !停止ガジェット(halt gadget):詳細は後述
@@@@@5つの隣接するトランポリン。これにより本体が13回実行される
パディング(空白、詳細は後述)
0 1^ g行番号 0 をプッシュし、i をコピーして、列 i の文字を取得する
P取得した文字を出力する
1+i += 1
$ループで戻る

停止ガジェットの仕組み: 最初の @ が自身の位置をコールスタックの一番下に積み、直後の s が ! を飛び越えます。その後、フィボナッチ連鎖によってループが13回実行されます。最後にコールスタックがすべて巻き戻されて最初の @ に到達すると、$ はその2セル後、つまりちょうど ! の位置から実行を再開します。これにより、文字列の終端判定を一切行うことなく、プログラムはきれいに停止します。

パディングの理由: @ が隣接している場合、最後の @ から戻るときに2セル先から再開されるため、連鎖の直後にある最初の1セルがスキップされます。そのため、そのセルには無害な文字(ここではスペース)を置いておく必要があります。

結果:Hello, World! を出力し、正常に停止。面積は 32 です。正しく動作しますが、まだ無駄があります。データ部分がただのお荷物になっており、%、パディングの空白、そして 0 で合計3セルを消費しているからです。


2️⃣ 解法2:インターリーブ(面積 28、ただし不正解) 🔗

Solution 2 annotated

1H@e@l@l@o ,1 ^WgoPr2lsds!+$

次のアイデアは、独立したデータ領域にセルを費やすのをやめ、**コードの隙間に文字列を編み込む(インターリーブする)**ことです。Hello, World! の各文字を奇数列(1, 3, …, 25)に配置し、その間の偶数列をコードで埋めます。

問題は、16回のループが13回より多いことです。文字列を最後まで出力した後もループが止まらず、末尾を超えて文字を取得し続け、$ と2つの NUL バイトを出力してしまいます。そして最後に $ が空のコールスタックを参照し、VMがクラッシュします。

output:  "Hello, World!$\0\0"
message: call stack underflow

サイズは小さいものの、有効な解答ではありません。しかし、この試行から重要なアイデアが生まれました。データ内の文字のうち、たまたま有用な命令でもある文字(,)に、「データ」と「コード」の一人二役をこなさせるという手法です。


3️⃣ 解法3:縦向きにする(面積 27、ただし不正解) 🔗

Solution 3 annotated

\
2
H
@
e
@
l
@
l
@
o
x
,
g

P
W
2
o
+
r
$
l

d

!

(1行につき1文字です。空行に見える部分はデータとしての半角スペース1文字です。)

プログラムを90度回転させて縦向きにすると、思わぬメリットが生まれます。1列のプログラムでは、g 命令が必要とする x 座標が 0、行(y座標)が i になります。データ内の , がその 0 をタダで供給してくれるため、文字取得の処理が x , g(i を複製し、0 をプッシュし、取得する)だけに縮まります。追加コストは、一番上でPCを下向きに変えるための \ 1文字だけです。

ただし、これにも解法2と同じ欠陥があります。ループが13回を超えて暴走し、NUL バイトを出力した挙句、call stack underflow で終わります。面積27はこの記事の中で最小のプログラムですが、ルール上はカウントされません。

解法2と解法3から得られた教訓は、**「きれいに停止するにはセル(面積)のコストがかかる」**ということです。インターリーブを使えばループ自体は安上がりに作れますが、必要なのがちょうど13回であるにもかかわらず、16回ループしてしまいます。


4️⃣ 解法4:終了判定のコストを払う(面積 30) 🔗

Solution 4 annotated

\
2
H
@
e
@
l
@
l
@
o
x
,
g
 
P
W
x
o
5
r
d
l
5
d
?
!
2
+
$

解法4では、解法3の縦方向のインターリーブを維持しつつ、正攻法の「文字列終端テスト」を追加しました。

行セル役割
0\下方向へ向きを変える
12i = 2
3, 5, 7, 9@4つのトランポリン(最大16回ループ)
11-13x , g行 i の文字を取得(, はデータと兼用)
15P出力する
17-24x 5 d 5 d判定値 floor(floor(i/5)/5) = floor(i/25) を計算(最後の d はデータと兼用)
25?判定値が 0 なら次のセルをスキップする…
26!…スキップされる次のセルは、データ自身の !
27-282 +i += 2
29$ループで戻る

インデックス i は 2, 4, …, 26 と進みます。floor(i/25) は最後の1文字(i = 26)に到達するまでずっと 0 のままなので、? は最後の1回を除くすべてのパスで停止命令をスキップします。そして最後のパスでついにデータの ! が実行されます。この ! は「最後に出力される文字」であると同時に「プログラムを停止させる命令」でもあります。

データの ,、d、! のすべてがコードとしても機能するという、非常に美しい再利用です。しかし、この終了テストに5セルを費やしているため、合計面積は 30 になります。

🧱 なぜ「29」は不可能に見えたのか 🔗

この時点で、私のAIアシスタントは「30が理論上の最小値である」と証明しようと試みました。どのアプローチも、同じ壁に突き当たるように見えたからです。

より小さな面積に対する網羅的な機械探索でも何も見つからず、解法4のレイアウト周辺で面積29を探索しても何も見つかりませんでした。「30が下限である」という説は、もはや定理のように見え始めていました。

しかし、そうではなかったのです。


🏆 解法5:29バイトへの到達(面積 29) 🔗

Solution 5 annotated

9@s!@@@@@Hello, Worlä¡1^gP1+$

突破口は、ジャッジシステムのソースコードを読み直したことから生まれました。重要なのは次の2行です。

case 'P':
  $output .= chr($this->Pop() & 0x7F); break;
...
default:
  break;   // every unknown character is a no-op

つまり、データの各文字には2通りのエンコーディングが存在するということです。通常のASCII文字は実行されると何かをしてしまうことがありますが、c | 0x80(最上位ビットを立てた文字)は確実に無害(不活性)になります。これこそが「データの公式」でした。危険な文字を c + 128 として格納し、P 命令に最上位ビットをタダで削ぎ落としてもらえばよいのです。

データの中で危険な文字は2つだけです。d は ä(0xE4)になり、! は ¡(0xA1)になります。この2文字を置き換えることで、データ全体をそのままコードとして通過(実行)できるようになります。これで、先ほどの3つ目の壁が取り払われました。

さあ、解法1をベースにして、データをループの内側へと移動させましょう。

列セル役割
09i = 9(H がある列番号)
1-3@ s !解法1と同じ停止ガジェット
4-8@@@@@5つの隣接するトランポリン(本体をちょうど13回実行する)
9-21Hello, Worlä¡データ。毎回のループでそのまま上を通過(実行)する
22-271 ^ g P 1 +i をコピーし、文字を取得し、出力し、インクリメントする
28$ループで戻る

1回分のパスの動きを追ってみましょう。

  1. PCが @ の連鎖のどこかに着地し、データの上を走り抜けます。H e l l o、スペース、W o r l は何もしません。データ内の , が、g 命令で行番号として必要とする 0 をプッシュします。 ä と ¡ も何もしません。
  2. 1^ がその 0 の上に i をコピーし、g が列 i の文字を取得します。
  3. P がそれを出力します。最後の2文字については、0xE4 & 0x7F = 'd' および 0xA1 & 0x7F = '!' として出力されます。
  4. 1+ が i を進め、$ がトランポリンの連鎖へと戻ります。

解法1と比較すると、3つのセルが消滅しています。

32 − 3 = 29。13回目のパスが終わると、コールスタックは停止ガジェットまで巻き戻り、プログラムは列3にある ! でピタリと停止します。

出力は Hello, World!、VMのエラーメッセージなし、271サイクル、面積 29 です。

🌐 最後のハードル:ジャッジにバイト列をそのまま届ける 🔗

最初の提出では、got: 'Hello, WorlC$' という結果とともにスコア31が返ってきました。Webフォームが UTF-8 で送信していたため、特殊文字がそれぞれ2バイト(ä → C3 A4、¡ → C2 A1)に変換されてしまったのです。7ビットにマスクされると、0xC3 は C として、0xA4 は $ として出力されてしまいます。

解決策は、ブラウザに Latin-1(ISO-8859-1)で送信させることです。Latin-1 なら、これらの文字はそれぞれ1バイトになります。チャレンジのページで DevTools のコンソールを開き、次のスクリプトを実行しました。

document.querySelectorAll('form').forEach(
  f => f.acceptCharset = 'ISO-8859-1');
document.querySelector('textarea').value =
  "9@s!@@@@@Hello, Worl\u00e4\u00a11^gP1+$";

その後、通常の送信ボタンを押します。ジャッジは Hello, World! と出力し、King of the Hill(最高記録)のスコア29が達成されました。


📊 スコアボード 🔗

#プログラム面積正常終了するか?
1Hello, World!%0@s!@@@@@ 01^gP1+$32✅
21H@e@l@l@o ,1 ^WgoPr2lsds!+$28❌ 余分なバイト出力とコールスタック・アンダーフロー
3\2H@e@l@l@ox,g PW2o+r$ld!27❌ 余分なバイト出力とコールスタック・アンダーフロー
4\2H@e@l@l@ox,g PWxo5rdl5d?!2+$30✅
59@s!@@@@@Hello, Worlä¡1^gP1+$29✅

💡 教訓とまとめ 🔗


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最終更新日: 2026/10/02.

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